連載「湘南の人」では、海などの自然に囲まれていながら、都心から電車で1時間ほどの場所に位置する湘南エリアで、暮らしを楽しむ人たちをご紹介していきます。
第2回目は、東京や横浜などの都心での生活を経て、今から5年ほど前に茅ヶ崎へ移住をし、ヨガ講師やポップアップショップのプロデュースをしている、遠藤未稀さん(以下、未稀さん)に話を伺います。
第1話は未稀さんの移住のきっかけと、湘南の街の魅力について。第2話では誰も知り合いのいない街で、ヨガ講師だけでなくさまざまな仕事を生み出しつづけられる理由について、伺いました。
>第1話「20代半ばで、異業種のヨガ講師へ転身。都会生活に違和感を感じた女性が、湘南に心惹かれた理由」
困っていたら、絶対に助けてくれる人がいる。仕事を軌道に乗せてくれた、行きつけのお店の存在
長年勤めた仕事に区切りをつけて、縁もゆかりもなかった湘南で暮らすことを決めた未稀さん。知らない土地で生活しながら仕事をしていく上で、不安を感じたことはなかったのでしょうか。
未稀さん:
「不安よりも“ワクワク”のほうが強かったですね。もともと見知らぬ土地に一人で行くのが好きで、一人旅もよく行きます。知り合いがいない場所にポンっと放り出されることに抵抗がないんです。
湘南に来たときは、これからこの街でどんな人と出会い、どんなコミュニティに属して、どんな仲間ができていくんだろうと期待に胸膨らませていたような気がします。きっとイイコトが起こるに違いないって」
未稀さんのお話を伺う場所にお借りしたのは、雄三通りにあるジュースバー「bowl market juice&deli」。未稀さんが湘南で動き出すきっかけをつくってくれたお店です
未稀さんの仕事は、主に二つあります。一つは、湘南に来る前から勉強を始めていたヨガの講師として活動すること。もう一つはポップアップショップのプロデューサー。茅ヶ崎にあるジュースバー「bowl market juice&deli」を間借りして、週に2回だけポタージュを提供するお店を運営しています。
どちらも本格的に仕事が軌道に乗ったのは、湘南に移住をしてきてから。どんな風にしてつながりをつくり、そして仕事として確立させていったのでしょう。
未稀さん:
「はじめは地域に密着している飲食店を見つけて通いながら、お店の人と話すようにしていましたね。たとえばヨガ講師をはじめるきっかけをつくってくれたのも、ここのジュースバーでした。
ある日レジの近くに、ビーチヨガを開催しているポップが置いてあったので、思い切って『わたしもヨガをやっているんです』と言ったんです。そしたらすぐに『じゃあ、次回の講師はあなたがやって!』と声をかけてもらえて……。そこからビーチヨガに参加してくださった方や、お店つながりで知り合った方など、どんどん人脈が広がっていきました」
どこかで誰かが困っていたとしても、絶対に誰かが見ていてくれて、助けてくれる。「こういう知り合いがいるから、困っていたらいつでも声をかけてね」と言ってくれる人がいる。湘南には、こうして力を貸してくれたり、人脈を広げるお手伝いを厭わない人が多いのだと、未稀さんは話します。
ヨガの哲学をもっと広めたい想いから立ち上げた、化学調味料不使用・動物性不使用のポタージュブランド「japotage」
続いて気になる未稀さんのポップアップショップ「japotage(以下ジャポタージュ)」の運営について、伺いました。
ジャポタージュは国産の食材をつかったポタージュブランド。化学調味料不使用・動物性不使用で、ベジタリアンの方や健康を意識している方に気軽に食べていただけるようにと、2021年3月からスタート。未稀さんと、ご友人の二人で立ち上げられました。
ヨガを勉強していくうちに、ポーズの形や美しさではなく、ヨガの哲学的な考え方に惹かれ、多くの方に伝えていきたいと考えるようになったという未稀さん。例えばヨガの世界では日々過ごしていること、生きていることそのものこそが「ヨガである」と伝えられているのだといいます。
かつて摂食障害になったご自身の経験もあって、食×ヨガの面から人を助ける仕事をつくれないか、と考えてたどり着いたのが「体に優しいポタージュ」だったのだそう。
未稀さん:
「ある日たまたまお寺で体験した”精進料理”と、友人が勉強していた”アーユルヴェーダ”の考えからヒントを経て、食材の恵に感謝をしながら、消化力を助けてくれる料理の一つとして、ポタージュを提供することを決めました。
湘南エリアではまだまだヴィーガン料理を提供している店も少ないため、健康や食を気にかけていらっしゃる方がよく来てくださいますね」
現在はお店でのみ販売しているポタージュを、今後はレトルト食材にして、いつでもどこでも食べられるようにしていきたいとのこと。未稀さんの想いのバトンをつないでいくために、まだまだポタージュとともに歩む旅路は始まったばかりのようです。
茅ヶ崎に来てから、インプットの時間を意識的につくるように。仕事のパフォーマンスが向上し、心にもゆとりができた
地域の人の力を借りながら、少しずつ自分がやりたいことを叶えていく未稀さん。一つ一つの仕事に向き合えるようになったのは、湘南で過ごし始めてからだといいます。
未稀さん:
「わたし、ずっとお金の面で不安があったんです。不安が頭をよぎるからこそ、あれもこれもと手を出しすぎたし、時間を気にせず働いていました。目の前のごはんを食べるために必死で、不安だからさらに働く、という悪循環になっていたんだと思います。
いまは仕事を絞ったことで、余裕ができました。余裕ができたから空いている時間に勉強をしたり、まわりの人との交流の時間に充てたりして過ごしています。かつては時間がなくてできていなかったインプットが増えたことで、結果的に仕事へのアウトプットの質が上がりました。
焦らずあえて空白の時間をつくることができるようになったことで、かえって一つ一つの仕事へきちんと向き合うようになり、愛情を持つことができるようになった気がするんです」
都会で働いているといつも時間に追われ、働く時間を長くしていればそれだけで仕事ができたような気もちになってしまっていた、と未稀さん。
湘南に来てからは、精神的にも時間的にも少しずつ余裕が生まれ、心にゆとりをもって生活できるようになった気がする、と話してくれました。
次回の第3話では、未稀さんの日常のこと、ライフスタイルの変化、そしてこれから先どんな風に過ごしていきたいのかなどについて、伺いました。
text by : Asako Sakurai
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