連載「湘南の人」では、海などの自然に囲まれていながら、都心から電車で1時間ほどの場所に位置する湘南エリアで、暮らしを楽しむ人たちをご紹介していきます。
第2回目は、東京や横浜などの都心での生活を経て、今から5年ほど前に茅ヶ崎へ移住をし、ヨガ講師やポップアップショップのプロデュースをしている、遠藤未稀さん(以下、未稀さん)に話を伺います。
第1話は未稀さんの移住のきっかけと、湘南の街の魅力について。第2話ではどのように人とのつながりや仕事をつくっていったのかについて。
そして第3話では湘南での日々の生活のこと、将来のことについて話していただきました。
「今日がダメでも、明日はいい波がくるかもしれない」
ヨガ講師や「ジャポタージュ」の運営をしながら、すきま時間に勉強をしたり、人との交流をしたりと、インプットとアプトプットのバランスをよく生活をしているという、未稀さん。
できるだけ一人ひとりに向き合ったヨガの講師でありたいという想いから、パーソナルや対面でのレッスンが多いのだといいます。必然的に生徒さんの生活リズムにあわせて、朝や夕方はレッスンの時間に充てることが多いのだそう。平日と土日も、あまり境目がなく生活していらっしゃるようです。
そんな忙しくも、ゆとりをもちながら生活ができているという、未稀さん。都会を離れて5年が経ちますが、生活リズムはどんなふうに変わりましたか。
未稀さん:
「まず、時間軸が全然違うんですよね。東京や横浜は、まわりの人の歩くスピードは速いし、いつもみんなせかせかしている気がしました。自分も含め、周りが見えなくなっている人が多いんじゃないかなって。
でも湘南はね、お店に『11時からオープン』と書いてあっても、時間通りに開かないこともしょっちゅうなんですよ。だってみんな、波が良ければサーフィンを優先したりしちゃうから(笑)。
別にさぼっているわけじゃなくて『なんでみんな、そんなに急いでいるの?』ってマインドの人が多いんだと思います」
もともとキッチリ生きてきたほうだと自負する、未稀さん。最初はこうした習慣にだらしなさを感じたという半面、うらやましさも感じていたのだそう。でも少しずつ、こうした湘南のゆったりと流れる雰囲気になじんでいったといいます。それは、ある体験がきっかけでした。
未稀さん:
「引越してすぐのころ、人間関係でうまくいかないことがあって、すごく落ち込んでいた時期があったんですよね。
そんなときたまたまサップのチームに入れてもらって、海に入っていたんです。同じタイミングでいらっしゃったメンバーさんが言った言葉が忘れられなくて。
『大丈夫だよ、今日いい波はこなかったけど、明日はもしかしたらいい波がくるかもしれない。そう思って、ゆっくりやればいいじゃん』って。
焦りや悲しみという感情がスッとなくなって、その方の言葉や考え方に救われたんですよね。失敗やうまくいかないことも、いい経験の一つだし、過ぎ去っていくなかのひとつの過程に過ぎないんだって教えてもらったんです」
まだまだ知り合って間もないころだったのにも関わらず、自分たちのコミュニティに快く迎え入れ、歓迎してくれた湘南の人々。自然とそれができるのは、心の余裕があるからこそだと、未稀さんは感じたのだそう。
少しずつ未稀さんのせかせかした気持ちもほどけて、湘南にいる間はゆったりとした気持ちでいられることが増えてきたといいます。
一人の時間と、仲間といる時間。どちらも大切にできる人におすすめしたい
未稀さん:
「とにかくいろんな人と繋がれるお店を、まずは紹介しますね。それから湘南エリアはマルシェが多いので、顔を出して知り合いをつくっていくといいですよ。
あとは『みんなのんびり屋さんだから、急がなくていいよ』ってアドバイスしたいです(笑)。それは決して適当でいいですよ、ということではなくて。ここではいろんなことに対して、焦らなくて大丈夫ですって声をかけてあげたいですね」
湘南エリアで暮らすことに向いているタイプは、新しく人と出会うことに抵抗がない人と、人とのご縁を大切にすることができる人かな、と分析してくれた未稀さん。反対にずっと一人で過ごしていたい、しっかり自分の時間できちきち動きたい人にはちょっと難しいかも、と笑います。
一人でいる時間を持ちながらも、行動を起こす際には周りの力を借りる。一人と仲間。そうしたバランス感覚が、湘南で生活していく上では大切なことなのかもしれません。
これからも茅ヶ崎で、自分の「武器」を見つけていきたい
最後にお仕事のこと、生活のことについてこの先どうしていきたいのか、未稀さんの思い描く未来を聞いてみました。
未稀さん:
「ヨガのレッスン回数を増やすとか、ポタージュの店を大きくするとか、そういう野望はないんです。どんな小さな仕事も、自分の一つの“武器”としてとらえています。だからこれから先も、なにか一つのことに特化してやっていくのではなく、たくさんの武器を備えていくことを大切にしていきたいんです」
ヨガや飲食だけでなく、新たなジャンルでも、何か動いていけたら面白いだろうな、と話す未稀さん。もともと一か所にずっとい続けるタイプではないとのことで、コロナウイルスが落ち着いたら、全国、世界中を巡って刺激を受けて、それを人に伝えていく活動がしたい、と目を輝かせます。
未稀さん:
「茅ヶ崎は、自分を見つめなおすのに最適な場所だと思うんですよね。今でも『今日死んでも悔いはないのか』、『今いる場所は自分が心から幸せを感じられる場所なのか』を、常に自分に問い続けています。人生は一度きりですから、迷いながらも、ちゃんと納得いく生活を送りたいんです。
茅ヶ崎は東京都心から1時間もあれば来れます。たった1日だけでも遊びに来たら、わたしが話したような時間の流れの違いや、人との出会い、非日常感って体験できると思うんです。
要は、その1時間の投資をできるかできないか。この行動の差で、きっと大きく変わります。
もし湘南エリアに興味をもっていただいたのであれば、ぜひ一度遊びに来てみてください。何か感じ取ってもらえることが、きっとあるはずです」
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精神的に暗く落ち込みやすい性格だったというお母さまでさえ、湘南に来てから少しずつポジティブな考え方をするようになってきた、という湘南の魅力。
茅ヶ崎で、迷いながらも着実に歩みを進めていく未稀さんに、私も勇気をもらえたような気がしました。
text by : Asako Sakurai
未稀さんと地域をつないでくれたスポット
bowl market juice&deli
未稀さんが初めて茅ヶ崎でビーチヨガの講師を担当させてもらったきっかけとなったジュースバー。現在は週に2回店内を間借して、オリジナルポタージュブランド「ジャポタージュ」のポップアップショップを開催中。
魚屋「魚卓」
ジュースバー「bowl market juice&deli」に隣接する、茅ヶ崎の地元密着型の魚屋さん。スーパーでは見られないような珍しい、新鮮な魚が多く、連日多くの地元民で賑わっている。
FLOWER COFFEE/BREW BAR
https://www.flowercoffeebb.com/
本格的でおいしいドリップコーヒー、スペシャリティコーヒーをいただけるお店。よく通っているのだそう。